想う、書く、暮らし。

〜ぶつくさと考える毎日〜

なぜフランスなのか

 

なぜフランスなのか。フランスに興味を持ち始めたのを言うのはこっぱずかしいけど完全に元彼の影響である。高校生の時から約4年付き合っていた彼とは当時、いつか一緒にフランスへ行けたらいいね。だなんてときめくような話をしていたのを覚えている。だからといって、今もなお未練があるのかと言ったら残念ながら全くないんです。

約4年も付き合っていたら遊び盛りの男子も、ある程度自由を得た女子も、お互いへの関心が薄れ、別れる。19歳の夏だったか。

 

元々安定志向だった私は、大学卒業後は教育公務員として働き、多くはない給料を安定してもらい、そこそこ貰えるボーナスで夏は3週間の海外旅行、春と秋は国内温泉巡り、ある程度お互いを知った男性と付き合い、結婚して出産、老後までひとっ走り。誰もが通りそうな道を小学生時代から思い続け、割と順調に進む。だからこそ、自分に与えられた自由な時間はこの大学生活にしかない…と思い、元彼に「いつか一緒にフランスへ行けたらいいね。」と言われたことを急に思い出して20歳の秋に初めての海外、初めてのフランス・パリへ一人で行った。それが、フランスに興味を持ったきっかけだった。

 

 

人生で初めて見たパリは、本当に面白かった。建てては壊されていくビルで乱立するモダンな東京と、何百年と歴史が残る建物が並ぶパリの石造りの町並みは全く違った。海外から日本に来た人にとって、キラキラした東京は魅力的に見えるのかも知れないが、やはり町の歴史の重みが違う。蚤の市という古い食器や衣服、はたまた使えるのか、使い方さえも分からないおんぼろの家電製品で溢れ返った場所を覗いてみても、モノを長く大切に使っていこうとする文化が根付いているのが伝わってきたことも興味深かった。その時までは、ただただフランスを面白いと思っただけで住みたいとは思わなかった。

 

 


 

それから2年後の大学4年。特に会社へ勤めたいとも考えていなかったので、7月に行われる教員採用試験を受ける準備をしていた。割と真面目に勉強もしていたので筆記にはある程度自信がつき、最後に模試を受けても希望の自治体受験者の中で順位は上から数番目、合格圏内の自信もつくほど頑張っていた(決して難しいわけではない)。そのまま採用試験を迎え、3つの試験のうち2つは9割は取れたであろうと安心していたところ…残り1つ…なんとマークシートを全て一つずつ、ずらして書いていた。試験数分前に問題番号が合わないことに気付いたものの焦っては書き直しを繰り返していたのを今でも鮮明に覚えている。

 

3割だった。3つの点数の合計からあと3点で落ちた。試験後、小学生でもしなさそうなミスをしてしまったことに私らしいなと納得しつつもやはり落ち込み、情けなく感じた。別に落ちても教員になれないわけではなく、空きがあれば採用されるのは知っていたが、小学生のころから教員になると一途に想い、願い続けた夢は、私のポンコツなミスにより一気に蒸発してしまった。これが噂の燃え尽き症候群だったのかもしれない。

 

 

さてさて、就職する気もない、しやりたいことも無くなったところでどうしようか考えていたところに、また「フランス」の4文字が思い浮かぶ。とりあえず土地勘もあるし傷心旅行(笑)と称してまた行ってみようと考え、いつも使っているスカイスキャナーで航空券を探していると、良い時期に重なったのか往復3万4000円という誰がどう見ても破格なチケットを見つけた。すぐに購入して10月1日に羽田空港へ向かった。駅や空港には真っ黒のスーツを着た就活生が多かったのをよく覚えている。卒業後のやることが決まり、着実に地に足をつけ内定式へ向かっているのであろう同い年の人達を横目に、私はまた一人でフランスへ向かった。

 

 

今回の旅は前回と少し違う。同じ高校の友人Aがバックパッカーで世界一周をしているところで、私と彼のフランス滞在期間が重なっていることが分かり、一緒にフランス観光をしようと約束をしていた。無事にパリ市内で合流し、観光の手始めに高速鉄道列車のRERに乗り、パリ郊外にあるヴェルサイユ宮殿へ向かった。宮殿の中はたくさんの照明、家具、ただの椅子でさえ金ぴかに、何ともまぁ立派に作られていて、だだっ広い天井には某有名イタリアンファミレス「サイゼリヤ」の店内の壁紙のような天使たちの絵が描かれているのだが、それとこれとはまた違う。(某イタリアンファミレスの壁紙は、ラファエロボッティチェリなどのイタリア出身の画家の作品が多いらしい。)

 

帰りもまた同じ列車に乗り、二人でパリの喧騒から離れた、また一味違うパリ郊外の田園が遠くまで見える長閑な風景を眺めながら自分たちの宿へ向かっていた。日が暮れていき、車窓からは風景が見えなくなっていくと同時に電車の明かりで反射された自分の情け無い顔が嫌でも目に入る。ふと、空港へ向かう途中で見た内定式へ向かっているであろう人たちを思い出した。私はその先が決まっていないなぁ、なんて考えながら。

 

 

でも、今日一日歩いてきて思ったことがあった。

「フランスに住んでみたいなぁ、あはは。」

と、友人に聞こえているのか分からない声で呟いた。

「住めばいいじゃん。」

と、自由奔放な彼らしい言葉が返ってきたけど、何気なく言った彼の一言が私の背中を押したような気もして、彼の一言が卒業後はフランスに住もうと決意させた。

 

「住めばいいじゃん。」と言い放っただけの無責任な言葉は彼にしか言えなかったと思ってる。もし、それが他の人だったとしたら「なんで?」が最初の感想だと思うし、もし私が何か言葉を返すとしても「なんで?」と、同じことを言うと思う。もし彼のその一言が無ければ私は今頃、「フランスに住むなんて…ばかばかしい。」と無かったことにし、そのままいつの日か小学校教員になって数年、体力もやる気もある若手教師ということで高学年を担任し、華々しく6年生を卒業させていたかもしれない。そこでまた新しい出会いがあったかもしれない。でも、その日があったお陰で今の私がある。彼の一言によってぐいと背中を押され、やりたいことが見つかったような気がしたことは、その時の私にとって人生を選択する大切な瞬間の一つだったと思う。

 

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ルーヴル美術館前。ここで出会ったナンパ詐欺師のアランという男の話はまた後日。